9割の会社がAI活用プロジェクトに苦戦してしまう理由
実は成功率が低いAI活用プロジェクト
AI活用プロジェクトの成功率は高くないことがわかっています。調査会社のVanson Bourneが2016年末にグローバルで実施した調査では、AIの導入に成功し、期待通りの投資対効果を引き出せている企業は全体の約10%にとどまったといいます。
投資対効果が低くなってしまう原因として、AIに対する3つの誤解が関係しています。
【誤解1】データさえあれば“答え”がでる
AIに大量のデータを与えれば、今までわからなかったインサイトが見えてくると思っている人は少なくありません。AIが全ての課題を解決できると信じ、「一つの手段」であることを忘れてしまうのです。しかし、そういったAI全能主義には注意が必要です。実は、成果を出すためには、筋の良い仮説を立て、ディープラーニングをしつつ、進化させていけるアルゴリズムを的確に作ることが不可欠です。
例えば、「営業効率を上げる」ためには、「見込み顧客の判断力向上」、「成果につながらない業務の効率化」、「成約率向上の要因特定」などいくつかの成功要因が存在しますが、どの要因をAIによって強化すべきかを特定しなければ、利益という最終成果に至りません。
【誤解2】AI導入はIT部門がリードすべき
AIは専門技術であるため、IT部門が考えていくべきものだと考えている方も多くいます。確かに、社内システムへの反映や実装段階の問題解決は、IT部門なくして取り組むことはできません。しかし、どのような目的のためにAI導入をするのかは、ビジネス部門側が明確な方針を持つ必要があります。
ビジネス部門が課題仮説を検討し、IT部門がAIで解決できるかを検討する。さらに、ビジネス部門が実際のデータを整理し、IT部門がスモールデータで検証する。そういった両部門での球の持ち合いがなければ、AIを実用化することは難しいのです。
【誤解3】すぐに結果が出る
業務効率化はまだしも、事業の強みを構築するためのAI活用では、データ整備だけでも半年~1年以上はかかってしまうケースが多くあります。実際、キリンでもAIを活用した試作ビールの開発効率向上に取り組んだ際、AIにデータを覚え込ませる期間だけで1年半もかかったと言われています。
時間、資金、部内連携(社内コスト)という多大なコストがかかることを考えると、本当に成果を出すための進め方を徹底的に準備しておかねばなりません。また、進捗管理の方法、さらには、いつまでにどのような成果が出なければ中止するという判断も含め、事前に検討をしておくことが必要です。
AI活用プロジェクトは「目的設定」が最も重要
AI活用で実現できる3つのメリット(課題解決型、強み強化型、新価値創出型)
AIを活用することによるメリットは、【1】収益改善などの課題解決、【2】強みの強化、また【3】新たなチャンス・価値創出の3つに大別されます。プロジェクトを開始する前に、まずそもそもの目的を明確に絞ってからAI技術活用の余地を模索するアプローチが重要です。具体的なイメージを持つためにも、実際の他社の例を踏まえ、どの形に一番近いかを考えてみてください。

課題解決型:収益化向上に向けたAI技術の活用
課題解決型のアプローチでは、自社の収益性向上を阻む根本原因を洗い出した上で、AI技術による解消が可能かどうかを検証します。
例えば、ハーレーダビッドソンでは、販売店での見込み顧客の少なさに苦しんでいましたが、「アルバート」と呼ばれるAIを活用したマーケティングプラットフォームを活用したところ、販売店に問い合わせをする優良見込み顧客数が、最初の1か月で1日1人から40人まで増加。さらに、その3か月後までに2930%(約30倍)の約1200人まで拡大させることに成功しました。
AIが、販売店の保有する優良見込み顧客データを用いて同じ特徴を持つユーザーを特定し、複数のメディア・広告・キャンペーンを最適に組み合わせることで、問い合わせのコンバージョンを上げたのです。さらに、使い続けるほどにその精度は高くなっていくため、優良見込み顧客数はますます増加していくというわけです。
強み強化型:顧客価値の維持・向上に向けたAI技術の活用
強みを強化する目的でのAI活用では、自社の競争優位の源泉を見出した上で、それを強化するためにAIを活用できないかを検証していきます。
例えば、韓国の菓子メーカーのロッテでは、トレンドにあった商品をスピーディに開発していく「商品開発力」が競争優位の一つとなっていますが、近年、「LCIA(Lotte Confectionery Intelligence Advisor)」と呼ばれる人工知能ベースのトレンド分析システムを開発し、約1年間分の数千万件に及ぶSNSデータや売上実績データ等を解析することで、商品開発に役立てています。
商品の開発コンセプトキーワードを特定したり、また商品パッケージのデザイン制作に活用したりと、マーケティング領域でのAI活用が進んでいます。
新価値創造型:未来の価値を創り出すためのAI技術の活用
新価値創造型のAI活用は、新規事業のアイデアの発想を広げるために、AIを通じて有益な情報を得るアプローチです。
例えばGoogleでは、Google Clipsと呼ばれる人工知能搭載カメラを開発しています。このAI技術はGoogleが開発した「Moment IQ」と呼ばれるもので、所有者の大切な人や動物を自動で判別し、その人(動物)が良い顔をした瞬間にカメラが勝手に撮影してくれるというものです。
つまり、「心に残る瞬間」を自動で残してくれるのです。このプロダクトはAI研究から生まれたものであり、「AIで何ができるか?」という発想を起点とした新製品です。
AI活用の検討にはコンサルファームの客観的意見を
本当にAI活用プロジェクトを開始できる状態になっていますか?
AI活用には、複数部門の連携、大型投資に対する理解、本気で取り組む気運の醸成が不可欠ですが、これらを揃えるには、AI活用の目的に対する納得感がどこまで得られているかが重要です。
AIを活用する方針には“総論賛成”でも、実際の業務への落とし込み、磨いていく強み等の具体的な検討において“各論反対”が生じてしまうことは絶対に避けなければなりません。そのためには、今の事業の課題、取り組む目的について客観的な立場から必要性を評価し、関係者の理解を得ていくことが大切になってきます。
このようにAI活用のプロジェクトを開始する前段階から、コンサルの力を借りるケースは非常に多くあります。今、自社の準備状況を踏まえて、的確にコンサルチームを選ぶことがAI活用プロジェクトの成功のカギです。